この金髪!烈火の剣を渡しなさい! 金髪って……私のこと? ……それに「烈火の剣」って何? 戦乙女のお姉さん……多分ガスバーナーを渡せってことだと思う……。 あ、あぁ、ガスバーナーね……。 バーナー……バーナー……。 あった、はい、ガスバーナー。 そうそう……これよ。ありがと。 すまない。うちのお馬鹿さんは、イライラすると人の言葉を喋れなくなるんだ。 ちょっと!このボサ頭!誰が馬鹿ですって!? 高貴な테슬라閣下以外、他に誰かいるとでも? こ、の……くらえ!烈火の剣! ……危ない! ……って、なんで나の方に向けるんだよ!?

どうしてこうなったのか……웰트は思わず深い溜め息をついた。

空もだいぶ暗くなった現在、42実験室には2人の来客者、リアーナ・ブリガンティアとヨアヒム・ノキアンビルタネンがいる。1人は本部でも優秀な戦乙女、もう1人はフィンランド人の息子だ。

何故、この2人が同時にここに現れたかというと……。

恐らく、それこそいわゆる「縁」というものであろう。

この「縁」を結んだ不運な浮遊ロボットは、果たしてどう思っているのか。


……もちろん、ロボットに思考能力があればの話だが。

ここが父親の職場ということもあって、ヨアヒムは何度も42実験室に来たことがある。毎回、天パのお姉さんとツインテールのお姉さんが、他の子どもでは体験できないようなことをさせてくれる。色鮮やかな化学溶液を作ったり、暗い部屋で放電コイルの音を楽しんだり、コンピューターのお姉さんと劇の練習をしたり……他の子たちに自慢できる思い出ばかりだ。

「お姉ちゃんたちが一番好き!」


――少年はそう思っている。웰트の目にはそう映った。

ツインテールのお姉さんが夏休み中にくれた通信機、それが数日前に鳴った時も、きっと何か面白いことが起こると少年は本能的に感じたのだろう。

「やぁ少年、一緒にハロウィンのいたずらをしない?」

ただ、ツインテールのお姉さんも墓地に忍ばせておいたロボットが、まさか偶然墓参りに来ていた戦乙女のお姉さんに「謎の飛行物体」扱いされ、バラバラにされるとは思っていなかっただろう。

「あら……そうとは全然知らずに、本当にごめんなさい!ちゃんと弁償するわ」

戦乙女のお姉さんが深くお辞儀し謝る様子を思い出し、ヨアヒムも自分のしたことを申し訳なく思った。


―――少なくとも웰트の目にはそう映った。

何がなんでも弁償させようとする大人を前に、少年は場を和ませようと――


「リアーナお姉ちゃん、サイン頂戴!」

と言うが……。


赤毛の暴君が、このまま引き下がるなんてことはないだろう。

まったく……。 あんたのあの「黒淵白花」って、なんなの?配線を残らず内部から切断するなんて、いったいどんな芸当よ? 「黒淵白花」は、分解と創生の能力を併せ持った「神の鍵」なの。 その破壊力は、標的を内から外へと無秩序な状態へ瓦解させるわ。 もし、これを最大出力で使用すれば―― ちょっと待って。 「分解と創生の能力を併せ持った」ですって? ということは――修復能力もあるってこと? ……ええ、そうよ。 それを早く言いなさいよ! そいつで、このスクラップを元通り修復すれば、一件落着じゃない! ……ごめんなさい、それは無理なの。もしそれが可能なら、私もその場でしていたわ。 え?なんで出来ないの? 黒淵白花の分解は、制限なく万物に使用ができるわ。でも、「創生」能力の方は生命体にしか適さないの。 ぐっ、そうなの。 いや、待って……おかしくない?有機と無機に絶対的な境界線はないはずでしょ。 そもそも「人」だって、角度を変えてみれば自我のある機械と同じよ。 それは……。 ……初めて聞いたかしら? 私たちの臓器を想像してみて。それに細胞、ミトコンドリア、メッセージ物質。 いずれも外部条件に基づいて、機械的に指令を実行してるだけでしょ? ただ人は柔らかくて、機械は硬いだけ――材質の違いに過ぎないわ。 私たち人類は賢そうだけど、機械は不器用そうなイメージがある。でもそれは私たちが、人類と同等の働きをする機械を作る能力がないからにすぎないわ。 頑なに「霊魂」なんてものを信じている奴は、この世の本質を深く知りたくないだけか―― 若しくは「自我」の概念に分別を失って、「裸の王様」みたいに何がなんでもそれを見ようと自分の「合法性」を証明せずにはいられない人達よ。 わかるかしら?こうした人間たちは、自分が自然の気まぐれの産物で、万事万物が発展する過程の副産物に過ぎないことを認めたがらないのよ。 地に足をつけて、しっかり自分を見つめるよりも、虚構の中でもいいから「偉大」であろうとする。 怖くて仕方ないから、傲慢に他人を蔑視する――「王権神授説」を叫ぶ国王たちと何も変わらないわ。 あはは……。 そうね……。 あなたが言うことは最もだわ……でも、どんな修復にも図面が必要でしょ。 図面?図面なら渡すわよ、何も難しいことじゃないわ。 いいえ……黒淵白花の場合、解析用遺伝子プログラム言語で書かれた図面でないといけないの。 え……DNA?

注:

1953年初めワトソン(James Dewey Watson)とクリック(Francis Harry Compton Crick)はフランクリン(Rosalind Elsie Franklin)が撮影したX線回折写真に基づきDNA二重らせん構造の正確なモデルを提唱、『ネイチャー』に論文を発表した(第171巻4356期737頁、MOLECULAR’ STRUCTURE OF NUCLEIC ACIDS:A Structure for Deoxyribose Nucleic Acid)。


P.S.たった1頁の論文で、署名と参考文献は738頁に掲載されている。

そうなの、DNA形式の「図面」しか読み取れないの。 ……ちぇ、つまんないの。 「神の鍵」なんていうから……「賢者の石」か何かかと思ったわ。

注:

賢者の石(Philosopher's stone)の概念は紀元後1世紀頃、ヘルメス主義(Hermeticism)の文書である『エメラルド・タブレット』(Emerald Tablet)に出てくる。

「賢者の石」は錬金術の境地を象徴しており、これを使えば石を金に変えられるだけでなく、不老不死の霊薬でもあると考えられていた。

あははは……賢者の石なんて、そんな……。 すまない、うちの「お馬鹿さん」ときたら、博士と称される存在だというのにいまだ錬金術など信じていて。 ……。 どうした、何か文句でも? …………。 何も文句が無いのなら、修理を続けよう。 ………………。 웰트。 はい!? ケガさせるほど危険な道具じゃなきゃ、多少シバいてもいいわよね? あー、それは……나を殴るとかじゃダメか? それか、関係ない人に迷惑が掛からないよう、家の壁相手に発散する方向で勘弁してくれると。 ……。
ゴスッ! いってぇ! なんで、また나なんだよ!? だって、あんたの方が面白いじゃない。 それに、これが「関係ない人に迷惑が掛からない」一番いい方法でしょ。 な、なんでだよ? 「……나を殴るとかじゃダメか?」って言ったじゃない。 ぷっ! 아인슈타인博士、この無関係を決め込もうとした男にどう罰を与えたらいい? 死刑はどうかな。 ……はぁ?ちょっと、どういうことだよ? ……ははは。 ……あなた、本当に「罪深い」男ね。 諦めて受け入れなさい。 ……待て待て、そんな言葉で納得できないぞ、나は。 えっと……。 なぁ、少年……助けてくれよ、同じ男だろ。 ……。 ご愁傷様、です? ご、ご愁傷様!? 君も「ブルータス」か!?

注:

シェイクスピアの歴史劇『ジュリアス・シーザー』に出てくる「Et tu, Brute?」(ブルータス、お前もか?)というセリフはカエサルが死に際、自分を刺殺した養子のブルータスに向かって放った最後の一言。

あんた、この子の義理の親でもないのに、「ブルータス」も何もないでしょ。 なら、いっそこれを機に手続きするのはどうかな? ヨアヒムの方がお断りでしょうけどね。はははは。 ……もう、いい加減にしてくれーー!
――ストップなのです! ニューヨーク、エジソンタワー・地下実験室。 ハリー、反射体はまだそのままなのです! ……見てください、反応がもう相当危険な領域なのです。 シュレーディンガーは思わず顔の汗を拭おうとしたが、分厚い防護服の上からではなんの効果もないことに今更ながら気づく。 ……ルイス、ドライバーをしっかり持つのです!この金属はジェンガ並みに不安定なのです。 そう、抜くときはゆっくり。 ゆっくり……。 ……その調子、なのです。 これでこの装置も未臨界の安定状態になるはずなのです……。 順調にいけば―― ――ハリー、今「コア」の温度は何度、なのです? ……45.7度です! ……あっという間に20.7度上昇しました!非常に高い効率で、通常の内部エネルギーへ転換できています。

注:

ハリー・ダフリアン(Harry K. Daghlian, Jr 、1921.4 - 1945.9)とルイス・スローティン(Louis Alexander Slotin 、1910.12 - 1946.5)

米ロスアラモス国立研究所の職員で、彼らは不幸なことにそれぞれ1945年8月21日及び1946年5月21日、操作を誤って致死量の放射線を浴びて死去した。

特にルイス・スローティン(Louis Alexander Slotin)は「両手で原子爆弾を分解した」ことで世に名を馳せた。

……素晴らしい! これは人類史上最も偉大な「民間」発明になるであろう! 立派なプロジェクト名をつけねばならんな! さもないと、プランクの奴に教養がないと笑われかねない。 ……偉大な民間発明?この発電が? フッ、ハハハハ!何を言っているのだ。 この発明が成功した暁には、私も、天命組織も、全員の望みが叶うのだぞ。 いや、その時には……天命組織が存在する価値も存在するための資本さえなくなっているであろう。 ど、どういう意味だい……。 「存在する価値も、存在するための資本さえもない」? 当然ではないか。 解せぬかな? 制御可能、かつどんな状況でも崩壊エネルギーを通常の内部エネルギーに変換することができるのだ―― この技術を広め、地球上の至る所で崩壊エネルギーを吸収、変換すれば―― 崩壊自体が存在しないことになるだろう? 天命は……崩壊でもって崩壊に対抗する組織でしかない。 つまり、崩壊と切り離したら、当然何者でもなくなるのだ。 この新大陸の力みなぎる人々が当時、斜陽の国王を必要しなかったようにだ! 「昇れ、美しい月よ!」 「妬み深い太陽の光を消してしまえ、自分に仕える乙女であるあの人の方が美しいと、怒り嘆き、両目を赤くしているあの太陽の光を消してしまうのだ!」

注:

「昇れ、美しい太陽、妬み深い月の光を消してしまえ、自分に仕えるあの人の方が美しいと、悲しみ嘆き、病み青ざめている月の光を消してしまうのだ」――『ロミオとジュリエット』シェイクスピア。

ふむ。 月……月光……。 ……「ムーンライト・スローン」? そうだ、作戦名「ムーンライト・スローン」!こういうのはどうかね?