男が予想だにしなかったのは、若く見える相手ではあったが、その肩書きは決して舐めてはならないものであったこと。
少女の名は李素裳(リー スショウ)。
彼女は川中『憶剣山荘』の若荘主、精衛真人の七番弟子『染香剣』こと、秦素衣の一人娘である。
精衛真人、染香剣、憶剣山荘。[\s]
神州の武術界では、どれも知らない人はいないほど名高いものだ。
しかし広い砂漠の中で、それらは何の意味もない単語でしかない。
砂漠とは、声望も虚名も関係なく、弱肉強食で生きるか死ぬかの荒原だ。[\s]
強い者は生き残り、弱い者は砂に埋もれるという世界。
だからこそ、母親は父親の反対を押し切って、子供であった自分を砂漠に送ったのかもしれないと、李素裳は思う。
李素裳が1歳の時、まだろくに話もできなかった頃から、母親は彼女に武術を教えた。
母親は彼女を可愛がっていて、つらい思いをさせたことがないほどだった。
しかし剣の稽古になると、母親は誰よりも厳しくなる。
素裳はいろいろ苦労した。腰や膝を痛め、骨が軋むのは日常茶飯事、夜中に痛みで目覚めることもあった。
彼女が父親に泣きつくと、その稽古はより厳しいものになった——父親が稽古の話をした瞬間、秦素衣は彼を睨んだのだ。
堂々たる憶剣山荘荘主、『川公子』こと、李紳は何も言えず、気まずそうにその場を去った。
その後、素裳は今まで以上に稽古に集中し、伝家の『憶心剣法』の十二の型を自由に使いこなせるようになった。
それでも母親は頭を横に振る。
素裳は、一体何が駄目であったのか理解できなかった。もっと勤勉になるべきだったのだろうか?
どうして自分はいつも母親の期待を満たすことができない?
疑問に思った彼女はある日、両親の会話を盗み聞きすることにした。
母親は冷たい口調でそう話した。
父親は小声で何か言ったが、素裳には母親の冷笑しか聞こえなかった。
窓の外にいる素裳にとって、母親の言葉はとても冷たいものに感じた。
父親はぎょっとして、すぐに反対した。それを聞いた李素裳は、なぜか恐れを感じていた。彼女は父親に賛同したかったが、母親の言った『漠北』、『五番弟子』のことも気になっていた。
その単語はまるで魔力でもあるかのように、口にした瞬間全ての雑音を消し去った。
母親はそれを実行した。
李素裳の5歳の誕生日に、両親は彼女にある贈り物を用意した。
憶剣山荘、川中、そして生まれてから離れたことのない『家』と別れを告げ、
李素裳はそのまま漠北に来て、十年間『最高の剣法』を学んでいた。
伝記解放:「李素裳」
10年の時は瞬く間に過ぎ去っていった。
家に対する思いは紙のように薄くなり、別れた時に母親が言った言葉だけが彼女の心に残っている。
剣法で何かを手にすることができただろうか?
武芸で何かを成し遂げることができただろうか?
今の自分は、母親の期待に応えられているのだろうか?
……素裳には分からない、だから証明が必要なのだ。
そして証明の方法は、『試剣』である。
故に、刀剣を手にした敵が彼女を包囲しながら近づいてきた時、
李素裳は意味深長な微笑みを見せた。
言葉などいらない。その笑顔が既に説明している——
少女の初の『力試し』は、今日にあると!