彼女は手を伸ばし、太虚剣気の最初の技「啓剣・裂空」の構えをとった。 「ほう。」 馬非馬が小さな笑い声をあげた。喜んでいるのか、それともうんざりしているのかは分からなかった。 「来い!」 言い終わるよりも早く、彼の姿は跡形もなく消えていた。 いや、消えたわけではない。目で捉えきれないほど速かったのだ。 吹いた突風、微かな空気の震え、そして間近に迫る殺気だけが彼の存在を知らせていた。 次の瞬間、馬非馬は李素裳と羅刹人の前に立っていた。彼は片手で掌打を繰り出す。一見何気ない動きに見えたが、それは太虚開剣形の―― 開剣・震風だった!

三日前の素裳であれば、この技に対して為す術もなかっただろう。

しかし、今の素裳は以前とは別人のようだった。

心は鏡のように澄んでおり、外界のものを映し出している。

馬非馬の動きは彼女の澄み切った心の湖に落ちると、煌めき輝く波のように緩慢な動きになった。

虚空に入った瞬間、彼女は男の技を見切るだけでなく、すぐさま最も適した返し技を繰り出した。

素裳は躊躇うことなく右手を動かす。

布に包まれていた軒轅が空を舞った。

剣身が回転し、刃が寸分の狂いもなく男の手の平に向けられる。

[em italic]――技を止めて![/em]

李素裳はそう祈った。

さもなければ、あらゆる硬いものをも切り裂く神器が馬非馬の手の平を真っ二つにしてしまうだろう。

しかし、男の掌打は躊躇うことなく、真っ直ぐと軒轅に向かってくる。

鉄をも切り裂く神剣ではなく、脆い竹竿を相手にしているかのように。

「覚えておくといい。開剣と化剣は相通ずる。

技を出すのは剣ではなく自分だ。形にこだわるな!」

男の小指が微かに動き、軒轅を受け止めた。 中指を剣身に触れさせ、手首をくるりと返し、宝剣を後ろへと受け流してみせる。 [em italic color=#FAFAD2](化剣形「月鷺」……そんなバカな?)[/em] どうやったら、こんなに素早く、正確に…… どうやったら…………こんなことが!? 「状況に合わせて変えるんだ。分かるか?どうしてまだ啓剣を使っている?遅過ぎる!」 次の瞬間、彼の手が再び掌打に変わり、素裳に襲いかかってきた! 素裳は腕を上げて防ごうとしたが間に合わなかった。 「うっ――」 柔軟さと力強さを併せ持つ掌打が素裳に命中した。彼女は口を開く。気の流れが圧縮されて爆発し、後ろへと弾き飛ばされた。 この掌打も開剣――「震風」だった! 彼女の幼い体は勢いよく砂の上に落ちた。柔らかい地面が力の大部分を吸収したが、それでも素裳は痛みに耐えかねて声を上げた。 口や鼻から血を流す。眩暈もする――技を受けた場所に痛みはなかったが、少女は戦闘能力を失っていた。

強い箇所を避けて虚を突く。防御力が最も高く、硬いものを逆手にとって弱点へと変える。

――太虚開剣形の「震風」は、まさに真気を巡らし、強烈な振動を引き起こす不可思議な技だった。

無防備な状態で掌打を受けた素裳は、表面はそこまでではなかったものの、内臓に重い傷を負っていた。

最も衝撃を受けたのは頭部だった。今も、激しい衝撃の余波が残っている。

「うっ、うう……」 素裳は起き上がろうとしたが、空と地面がグルグルと回っているような状態であった。 空と地、青と黄が混ざり、螺旋を描く。 螺旋―― ドン。 少女は地面に膝をついた。目尻から滲む血で視界がぼやける。 彼女は何とか前を向こうとしていた。

捻じ曲がった世界の中で、彼女の目が捉えられたもの。

それは、羅刹人の翡翠のような目だけであった。