目的地イエローストーン――出発っ!

翌朝、掛け声とともに플랑크がアクセルを踏み込むと、一行を乗せた丸っこいフォルクスワーゲン・タイプ2のキャンピングカーが、ビリングスから西へと飛ぶように走り始めた。

恐らく起床が早かったからだろう、車に乗って間もなく、後部座席の三人は揃って眠りに落ちた。

ローレル。 パークシティ。 コロンバス。 リード・ポイント。 グレイクリフ。 ビッグ・ティンバー。

一つ一つが小さな植民地は、ぐねぐねとしたイエローストーンに沿って巧みにモンタナの荒野に分布しており――この広大な土地の中に人類の痕跡を残していた。

よくこの道を走っているが、슈뢰딩거はそれでも興味深げに外の荒涼とした景色を楽しんでいる。

モンタナはいいわぁ……。 この静謐に満ちた荒野は、頭と心を開放するのに最適よね! はい。民家が目立たなければ、この荒野はもっといいものなのです。 あら、じゃあ、あなたアラスカが好きなの? いえ……あそこは結構なのです……。 アンカレッジ付近は山が多すぎなのです。

注:

アンカレッジ(Anchorage)はアラスカ州最大の都市。州政府の所在地であり、アラスカ中南部、チュガッチ山脈(CzugachMountains)の東麓に位置している。

あっ。 シベリアはいいかもなのです。 ただロシア人はちょっと苦手なのですが。 カナダが隣だというのに、わざわざ遠くに行くのね。 ] カナダはアラスカのユーコン準州を含めて最終氷期には完全に北極の氷の下に閉ざされていた場所なのです……。

注:

最終氷期(Last Glacial Maximum)は今から直近の氷河期で、最盛期は紀元前2.5万年頃。

その時期は地球の陸地の約24%が氷に覆われ、海面は現在よりも約120メートルほど低く、両極の平均気温は現代に比べ10度~20度ほど低かった。

最終氷期の盛りには、地球は現代よりも寒冷で、乾燥し、砂漠化が深刻だった。

教授、仕事であそこに行く可能性はどれくらいあるのです? そうね……。 でも、シベリアはそもそも私たちの管轄外よ? はいなのです。でも、あそこには【バビロンの実験室】があるのです。大主教に逆らった者はみんなあそこに送られ、人体実験を受ける話があるのです。 ……その笑い話は寒すぎるわ。 ……1ミリも笑えないわね。 教授は、いつも不都合なことを思考から除外するのです。 まるで他人事のように、슈뢰딩거はのんびりと自分の縦ロールを弄る。 Uncertainty principle.(不確定性原理) 世界は人類の観察により変化する、なのです――もし綺麗でかわいいものにばかり目を向けていたら、それも脆くて弱い陶製人形に変わってしまうかもしれないのです。

注:

不確定性原理(Uncertainty principle)、すなわち、粒子の位置と運動は同時に確定することができず、その不確定性は不等式――

ΔxΔp≥h/4π

――うち、hは플랑크定数である。

当該原理は、観測者は一つのミクロの粒子の全ての物理量を等しく正確に予測することはできず、そのいずれかの量の確定性が高ければ高いほど、他の量の不確定性が高くなるというもの。

……。 陶製人形の話はさておき―― ――リーゼルちゃんは元々あなたよりかわいいわよ、슈뢰딩거博士。 ……。 話題が思いもよらぬ方向へそれたせいか、縦ロールを弄っていた슈뢰딩거の人差し指が中空に止まった。 ふふ―― ――笑い話でバーバリアを超えようなんて、オーストリアには100年早いわよ!

注:

バーバリア(英語:Bavaria、ドイツ語:Bayern、「バイエルン」)は、ドイツ連邦共和国東南部に位置する現代ドイツ最大の州。

バーバリアの風土と性格はドイツのほかの地域とは全く異なる。

歴史の上でも最後にプロイセンに組み込まれたドイツ連邦の一国。

ちなみに플랑크はバーバリア人であり、슈뢰딩거はオーストリア人である。

……。 教授、地域差別はよくない行為なのです。 ええ、だからあなたにはまだ修練が必要なのよ。 全身インキなオーラ全開なだけでなく、ちっとも空気を読まない―― そのままじゃ彼氏できないわよ? ……。 何よ……。 変わる理由として、説得力が足りなかったかしら? ……。 슈뢰딩거はやるせないため息をつく。 ……。 教授、自分が独り身なのを気にしすぎなのです。 ……。 もう!本当にかわいくないわね! ふん!
……。

웰트が目を覚ましぼんやりとした目を擦ると、フォルクスワーゲン・タイプ2の運転手はあのインキな縦ロールに変わっていた。

助手席には長い脚をフロントガラスに投げ出し、スカートの裾が捲れ、散らばった長髪が滝のように背中を流れ落ちている元運転手がいる――この教授の寝相ときたらまったく。

リビングストンを出たばかりで、ルート89号に沿って南に向かっているところなのです。 バックミラーで人が起きたのを見て、슈뢰딩거は現在の状況を告げた。 それなら、先にイエローストーンの状況について見てみるか。 아인슈타인もいつの間にか起きていたようだが、その声にはまだ少し眠気を含んでいた。 後ろの二人は、もう少し休ませてあげたいのかしら? 目を閉じたまま言ったのは플랑크だ。どうやら眠ってはいなかったようだ。 この酔っ払いなら十分に休んだよ。 そう言って、なんの躊躇もなく赤髪のツインテールを叩く아인슈타인だった。
あ――いたた……。 もうちょっと優しくできないわけ。 테슬라は眠い目を擦りながら、力なく文句を言った。今日は起きてすぐにメガネをかけたが、伊達メガネじゃないのか? 二日酔いの人に発言権はないよ。 아인슈타인は不満そうな彼女を一瞥した。 핀란드인も起きたか? ハイハーイ!! 聞き慣れた軽薄な声が後方から聞こえる。핀란드인はとても元気なようだ。 みんな起きたわね―― ――じゃあ、基本的な地理状況から説明しましょうか。 わかりましたなのです。 슈뢰딩거は慣れた様子でギアをチェンジし、スピードを落とした。 知っての通り、イエローストーン国立公園は世界初の自然保護区よ。 公園の中核であるイエローストーン・レイクは、イエローストーンの大火山の主要な噴火口でもあるの。ここの活火山はエネルギーが巨大で、 一旦噴火すると火山灰のせいでその年の地球全体の平均気温が10度下がるわ。 10度? 웰트には、それがどんな問題に繋がるのか瞬時には理解できなかった。 これが意味するところはつまり、大多数の熱帯亜熱帯の作物がいずれも不作になるってこと。 もし対応を誤れば―― 誇張なく、飢饉と疫病が多くの国で蔓延するわ。 なっ……。 安心するのです、我々が生きている間は心配するようなことは起こらないのです。 슈뢰딩거は、ちらりとバックミラーを見た。 それに、崩壊に負けたら心配もなにもないのです。 ま、不可知論的に言えば、イエローストーン火山が「崩壊の超豪華なセットメニュー」のひとつと考えられるわね。 ……セットメニュー? 崩壊がもたらす破壊は多種多様なのよ。 赤髪のツインテールは教師然と続ける―― ペスト、氷河期、世界大戦――これらすべての元凶に崩壊の影が隠れているわ。 詳細は省くけども、世界大戦の戦犯は例外なく崩壊エネルギーに侵食されていたの―― 分析結果によると、うち2つほどのサンプルは崩壊エネルギーの密度が致死量の数倍にも到達していたわ。 なっ―― 一般的に、哺乳類のオスの代謝環境は崩壊の感染に対して強烈なアレルギー反応を示すの―― 言い換えれば、男性の崩壊エネルギー耐性は往々にして低い―― でも例外もあるのよ。 さっき言った2つのサンプルも、あんたも、その例外。 え……나? 웰트は、自分がそんな悪魔みたいなものと同列の関係にあるなど想像もしていなかった。 そう。あんたは何か私たちの知らない奇妙な特性を持っているはず。 あんた自身も、組織があれほど執拗に実験してたんだから何かしら感じているところはあるでしょ。 いや、나が言いたいのは……。 安心しろ。 前列の天パ소녀が振り向いて青年の頭を撫でる。 君の魂は変質しないよ。 ……。 もしかしたら自分でもすべて忘れているだけで、君はすごくいい人だったのかもしれない。 あはは……。 それ……なんの根拠もないだろう? 나を信じろ。 確かに【根拠】は何も無いが……。 ……でも、나を信じろ。 아인슈타인の目には、暖かくも確固とした光が宿っていた。 ゴホン。 その話はまた今度にしましょう。 話を戻して、まずは本題を話しましょ?とってもおもしろいわよ。 ――最後にひとつ、サンプルからは炭素14の存在が確認できなかったわ。

注:

炭素14とは炭素の放射性同位体の一種であり、その半減期は約5730年。

つまり、生命活動を停止したサンプルは、5730年ごとに、その炭素14含有量が半減するということであり――その比率で減衰し続け、精密機器でも測定できなくなったところで終了する。

ここから総合的に判断して、遺跡で最後に誰かが活動した年代は紀元前50000年前後、誤差は1000年を超えないわ。 以上。 やはり信じがたいね……。 핀란드인は十本の指を合わせて、深く考え込む。 ……まさか、前の文明の時代から人類がすでに北米地区で活動していたなんて。 南極の調査ポイントと似ているでしょ。 私たちの知っている文明以前との矛盾はないわ。 플랑크は一向に気にせず自分の長髪を弄ぶ。まるで슈뢰딩거の真似をしているかのようだ。 イヤ……。 旧大陸の遺跡の規模と比類することを考えると……事態はそれほど簡単な話ではないかもしれないよ。 핀란드인は名探偵でも気取るかのように、今度は握りこんだ拳で頬杖をつく。 핀란드인はシャーロキアンなのか? あの……。 大分前から話についていけていない웰트は手を挙げた。 さっきからずっと議論している「前の文明」って―― ――いったいなんなの? うーん……そうね……。 あ、まだガードナーには入ってないよね。 플랑크はルートの標識を確かめた。 いいわ、まだ時間はあるし。暇つぶしもかねて、誰か彼に説明してあげてちょうだい。 じゃあ、私が説明するよ。 古代文字の専門家、핀란드인が率先する。 前の文明とは、その名の通り、私たちの歴史が始まる前に、既に地球上で隆盛を誇った科学文明のことだよ。 その文明の古くは紀元前53000年ほど前のアストラハン3号遺跡まで遡れる。

注:

アストラハン(Astrakhan)はカスピ海低地、ヴォルガ河流が通る最後の都市であり、橋梁で繋がれた十以上の諸島からなる。城の建造は13世紀のジョチ・ウルスに始まり、1460年~1556年はアストラハン国として独立。その後モスクワ大公国に合併された。

スイカの名産地である。

共通した文化を特徴に日本海から地中海、バルト海からペルシャ湾に至る区域だ。 彼らも人類なの? ハハ、当然だよ。彼らは初めて「アフリカから出た」ホモ・サピエンスでもあるハズだよ―― とはいえ、彼らの文化様式は、我々とは大きく異なるんだ。 ……生活習慣とか美術的趣向が違うってこと? ハハハハ、そうじゃないよ。むしろ、その方面は、意外ととても似ているんだ。 私が言った様式というのは、主に文明の歴史の長さと文化の多様性なんだ。 例えば、私たちの文明は、最も古いもので紀元前4000年の少数の地区だけに見られる。 そこから数えると6000年を経て伝播発展し、ついに地球規模の文明世界を形成した。 私たちの文明には数え切れないほどの民族、文字、文化があり、これは一種の多様性が非常に強い文明体系と言える。 前の文明はそうでなかった? ウン、彼らには【全世界規模】で統一された文字、技術スタイルがあったんだ。 私たちの文明にも、ギリシャ・ローマ・ブリテンのように非常に強い文化があるけど、彼らには遠く及ばないよ。 例えるなら、彼らから受ける印象は古代の東アジアで――【誰もが漢字を使っている】そんな感じだよ。 それって……多様性がとても低かったってこと? そう。そして、彼らは私たちが南極を保護しているように、アメリカをまるごとひとつ、無人の原始状態で保護したんだ。 まるで、土地は重要な経済要素ではないとでも言いたげにね。 おそらく、かなり早い段階から広く崩壊エネルギーを利用してたんでしょうね。 そうなると、崩壊エネルギーが欠乏した地域に住んでも意味がないもの。 私たちが住む現代の大都市が遠洋埠頭、運河埠頭、あるいは鉄道路線に近いようにね。 崩壊エネルギーは放射線みたいなものじゃないのか? あははっ、雷は人を傷つけることも、照明になることもあるでしょ! 崩壊エネルギーも同じよ。 物理学の見地から言えば、崩壊エネルギーは――あるいは虚数内部エネルギーは―― ちッ、こんな風に説明してもあんたには分かんないわよね。頭が痛いわ。 虚数内部エネルギーは崩壊現象及びビッグバンに関する一種の仮説だ。 아인슈타인は楽しそうな顔で話を継いだ――

熱力学第二法則はこう述べている。一系等のエントロピーの低下は、必然的に他の一系統のエントロピーのより大きな振れ幅の上昇を引き起こす。情報の観点からは、これは情報が高度に入り乱れた普通の環境で、情報の高度に秩序化された負のエントロピー環境の間には、巨大な情報のアシンメトリが存在する。歴史研究から崩壊エネルギーとそうした情報のアシンメトリは切っても切れない関係であることが分かる。また数学上は、崩壊した次元の虚数内部エネルギーに属し、発散次元――つまり나たちが普段感知している四次元空間――の熱力の特徴的な実数内部エネルギーは、数学上は高次元関数を通してまとめて表現でき、結果としてミクロの視点で崩壊の波動を予測することができる。それによって、現在の研究者は一般的に、この「虚数内部エネルギー」が崩壊エネルギーである、あるいは少なくとも崩壊エネルギーの重要な構成部分であると予想しているのだ。

どうだ、少しは分かったかね? ……。 分かるわけないだろ!

「人びとの利益と楽しみのために(For the Benefit and Enjoyment of the People)」と刻まれたルーズベルトの門を抜け、フォルクスワーゲン・タイプ2はルート89号に沿ってワイオミング州に入る。学者たちは熱心に各種の技術の細部を討論していた。基本知識すら分からない웰트はただ国立公園の風景を眺めるしなかった。

マンモス・ホット・スプリング イエローストーン・レイク ローリング・マウンテン ファイアホール・リバー 公園の管理部門が名勝に付ける名前のセンスは、なんとも形容しがたい。 웰트、今何時何分? 運転席に戻っていた플랑크が、ふと何かを思い出したかのように現在の時刻を尋ねた。 待って……。 時計を持っていない青年は、前列소녀の手首をつかみ捻らせた。 ちょっと、何すんのよ! 테슬라の抗議には耳を貸さず、웰트は必死に視線を小さな円盤の上に集中する―― 今は14時44分43―― 離せっ!!
っ!!あ、ああぁ、あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!! 테슬라は手加減なしに肘打ちを食らわせる。その威力は彼女自身の眼鏡も飛ばす勢いだ。 壮絶な叫び声が一瞬にして車内に響き渡った。 あはっははは……。 何はともあれ、間に合いそうね! 長髪のお姉さんが乱暴にギアを入れ替え、そのままアクセルを踏み込んだ―― 初めて来た人は、左側をよく見てちょうだい! キャンピングカーは猛然と加速し、まずはサファイアのような色彩の泉をいくつか通り、それから大きな橋を渡り―― さらにそのまま公道を下りて、比較的ゆるやかな山の上に上り―― すぐにまた90度ドリフトの急ブレーキをかける。 うわあああ!事故る事故る!!助けて!! と、웰트が悲鳴を上げた瞬間――

ザッバーーーンッ!

高さ3、40メートルもありそうな水柱が、山の斜面後ろの盆地から空に立ち上り、火山が爆発したような大量の湯気が立ち込めた。

オールド・フェイスフル!

注:

オールド・フェイスフル(Old Faithful)は世界で最も人気のある間欠泉。1回の噴水量は3700ガロンから8400ガロンの間で、水温は摂氏約95度。

オールド・フェイスフルは時に洗濯場となる。噴水が止まっている時に衣服を噴水口に置き、噴水を待つと衣服が洗われてきれいになる。シェリダン将軍の兵士は1882年に亜麻と綿布の衣料は水に洗われてもダメージを受けないが、ウールはボロボロになってしまうのを発見した。

タイミングよく見られるなんて! いやぁ、これはラッキーだったね。 ……やはり、冬は夏以上に壮観だな。 この名所はとても時間に正確なことから「オールド・フェイスフル」と名付けられたけれど、実は二つの間欠時間があるのよ! 65分間と91分間――間隔がどちらなのか、それはその時の噴水量で決まるらしいわ。 え……じゃあ나らは―― どう?超ラッキーだと思わない? ……教授、からかわないでくださいなのです。運とかは関係ないのです。 公園が毎日噴水時間の予報を出しているだけなのです。 ……。 슈뢰딩거……何事もあなたにかかれば、ミステリアスでなくなるわね……。 ありがとうございますなのです。これが長所なのです。