「この大陸、この星を守ることこそ、共和国の使命である」——爽やかな騎士は祖国のことをそう語った。 赤道の北にある群島から南の果ての氷原まで、広い南アメリカ大陸のすべてを共和国が守っている。 その一方で、地心へと通じる「ワカートンネル」を守るため、兵も割かなければならない。それ故、この辺境の警備は彼女たちのような前線から交代してきた部隊が務める—— 「ただ地理上、共和国の辺境が脅かされる心配はほとんどない。我々の行軍は半分観光のようなものだ」 騎士たちやシェイクスピア船長が言うには、潜水艦以外でこの世界の海を渡ることはできないらしい。 海の真ん中で100メートルを超える大波が常にうねっているそうだ——戦乙女たちがいた世界では、台風や津波でもせいぜい20〜30メートル程度なのに。 この世界には多くの秘密が隠されている……でも戦乙女たちにとって最優先任務は、エーテルアンカーに関する情報収集。 ……そして、その次点の任務が聖剣の宝石を探すこと。 ああ、あそこにある鉄の塊があなたたちの「潜水艦」か。 ああ。2万リーグ以上を航行してきた、素晴らしき「カレドニア号」だ。

注釈:

リーグ(英語:League。フランス語:Lieue。スペイン語:Legua)は、古代ローマ発祥の長さを表す単位。米では一般的に3マイルもしくは3海里と定義されている。

p.s. ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』(Vingt Mille Lieues Sous Les Mers)の原文タイトルに使われたのがこの単位である。

たった一日で大西洋を横断できるのか? なんだい、騎士さんは休みを利用してエジプト旅行にでも行きたいのかな? こちらにもメリットがあれば、喜んで案内しよう。 あ、いや……ただそちらの潜水艦の足が速いのであれば、「ワカートンネル」へも案内できると思っただけだ。 ……本気かい?この国で一番重要な要塞なんだろう? はは……「地底大陸」という共通の敵がいるのだから、互いのことを知っておいた方がいいと思ったんだ。 でも……それだったら、こちらの実力も見せるよう言うのが普通じゃありませんか? ふふっ、ここは我々の共和国だぞ。そのようなこと客人に失礼だ。 それに、その「カレドニア号」の驚異的なスピードこそが、大事な戦力だろう? はぁ……A級戦乙女もなめられたものですね。 素手でも下位の崩壊獣(Bêtes Houkai)を簡単に片付けられるんですよ! ……「崩壊」(Houkai)?その禁忌の名を知っているのか? あれ、言ってませんでしたっけ?私たちの世界で「戦乙女」は「崩壊」と戦う軍人なんですよ! 私たちは他の……えーと、「平行世界」みたいなところから、この世界へとやって来たのは説明しましたよね。 ああ……確かにそう聞いたな…… つまり、「崩壊」はこの大陸特有の現象じゃないのか。 それなら——
皆さん!ぜひ私の同行を許可してほしい! ちょっと——何で急に跪くんですか!? 「崩壊」は怪物を生むだけでなく、人の体をも蝕む。先天的な才がなければ、このような分厚い鎧を纏っていても、戦場では一週間と戦えない。 ——それが我々軍隊が、前線と定期的に交代する根本的な理由だ。 それに実際の作戦では——私のような「インカ」の名を冠する「星語者」以外——一般兵が野戦で優位を取ることはできない。 戦乙女が本当に我ら「星語者」より強く、崩壊や崩壊獣に対抗できるスペシャリストであるのなら…… ぜひとも、共和国議長と要塞司令に紹介させてほしいのだ! 頼むッ! そ、それはもちろん構いませんが、とりあえず立ち上がってください!そちらの言い分はわかりましたから! まあ、船に乗ったのならもう我々の仲間だ。さあ、目的地の座標を教えてくれ。 あ、ああ……感謝する。目的地は西経1.5度、南緯47.5度だ。 1.5度?今いるのは南アメリカだろ?71.5度じゃなくて? い、いや。1.5度で間違いない。 おかしいな……その座標に陸地なんてないぞ、南大西洋のど真ん中だ。 なるほど…… ローランドさん、失礼ですが、どの「本初子午線」を使っているのでしょうか? 「どの」?本初子午線とは、クスコ旧市街の中軸を通るあの線じゃないのか? ん? 船長、どうやらこの国の経緯度は我々と異なるようです。 ……盲点だ。0度の経線がグリニッジじゃない経緯度なんて聞いたことないぞ。 あははっ……「グリニッジ」とは……知らない地名だ。

注釈:

本初子午線、0度の経線であり、その東西は東経と西経と呼ばれる(両者は180度で交わる)。緯度の起点(赤道)が地球の自転軸で決まるのと違って、理論上、どの経線も本初子午線として扱うことが可能。歴史上には複数の定義が存在した。

グリニッジ(Greenwich)は、15~16世紀頃のイギリス王宮の所在地。1675年、ここに王立天文台が設立された。1884年、国際会議でグリニッジ天文台を通る経線が本初子午線と定義付けされた。そして、「グリニッジ時間」がイギリス以外にも普及し始める。1967年、国際天文学連合によりグリニッジ時間を基準に「協定世界時」が導入され、全世界の時間の基準となった。

ふむ、そうと分かれば話が早い。 アリス、いるか?クスコ旧市街から西へ1.5度の経度を計算してくれ。 かしこまりました! 大図書館の資料を元に算出したところ、西経73.5度です! ……なんと、これはビデオ通話か? 共和国では、議長クラスのお偉い方しか使う機会がないというのに! どうだ、すごいだろう。 ああ!要塞の外で見るのははじめてだ!あなた方は我々にとって最高の援軍だろう! コホン、ローランド少将団長、お世辞が露骨すぎるわ。 あ、ああ!申し訳ない! って、あれ?ブオナローティ局長?何故、彼らとの通信に!? え……どういうことです? 何だ、知り合いだったのかい? ローランド、私の共和国での役職を教えて差し上げて。 あ、はい。 ブオナローティさんは共和国技術情報局の局長だ。全世界の各研究基地に入り、国内へと技術の輸入を行っている。 ……それって、スパイですよね? お褒めに預かり光栄ね、アタジナさん。 大図書館、アレキサンドリア港、ピラミッドのロケット発射場——ここは世界のどこにも追随を許さない研究環境だもの。世界のために役立ってもらわないと。 で、でも……あなたは今、代理「市長」ですよ!市民に対しての責任は!? 市民にとって、最大の利益とは安全よ。「崩壊帝国」に対抗できない世界など、安全とはほど遠いでしょう。 ……それに、シェリー会長が目を光らせているから。 …… そうだ。だがまさか、こんなタイミングでカミングアウトされるとは思わなかったが…… 君は代理会長なんだぞ。そうもあっさり正体を明かすなんて、どういう思考回路をしているんだか…… ……「壁」の脅威が取り除かれたら、すぐにでも辞任してもらう。 どのような動機であれ、ここの法律に反している。 構わないわ。その時が来たら辞任してとっととアレキサンドリア港から出て行くから。 それで問題ないでしょう? …… おいおい、シェリーさんも大変なんだから、余計な仕事を増やしてやるな。 さて、館長——いや局長さん——つまり我々「カレドニア号」の動向はすべて共和国の監視下にある、ということか? ……私と議長が共和国を代表する立場であるのなら、答えはイエスになる。君たちの行動はすべて把握してるわ。 逆に、他に君たちのことを知る共和国国民がいないことも保証しておきましょう。 ——そこにいるローランド少将も、意図して君たちと接触したわけではないの。あまりいじめないでちょうだいね? ハハハッ、ローランドさんみたいな良い子をいじめるはずがないだろう? では、せっかく出てきてもらったんだし、説明してもらおうか。「ワカートンネル」とは一体何なんだい。 本当に地心を通っているのか?どうやって? ええ、通っているわ。 原理については…… それを説明する前に、まず「地球球体説」について話しましょう。 ……いきなりだね? 直感的に、私たちは十分な理由をもってして大地が平らではないことを証明できる。 昔の航海士は、南北の星空の違いから「天球」の存在を推測し、さらに天と地の平行具合を見ることで「地」とは「球」であると結論付けた。 けど、この推論は厳密性に欠けているの。 「平らではない」ことと、「球である」ことはイコールではないでしょ? 航海時代を生きた人々は、ただ二つの事実を観測しただけ。「星の位置が回っている」ことと「天と地の平行関係」。 前者は確かに「天と地の間では絶え間なく相対運動がされている」ことを導き出せるわ。でも、後者は「地面と空の構造が同じ」である証明にはならない。 理由は簡単よ。彼らは世界のすべてを踏破したわけじゃないから。 「地球」が単純な構造であると誰もが思っている。 航海士が観測できない場所では大地が曲がっていて、折り畳まれているかもしれない。星空も海面の激しい波のせいで、正確な経緯度を測れていないかもしれない。 馬鹿げているね。自然形成された地球がそんな複雑な構造をしているはずがないだろう?球体が最も安定的した構造だというのに。 いえ、船長、局長さんが言わんとしていることは恐らく—— ——我々が今いるこの世界は、自然形成されたものとは限らない、ということなのです。 …… 彼女の仮説は理に適っているわよ、船長閣下。 この世界は元々、「エーテルアンカー」によって逆方向から構築された——人造のものなの。
人々がどうやって世界地図を描いたのか、思い出してみて。 広い世界地図よ、複数の人間がそれぞれの区域を担当することになる。また、地面を「世界」という尺度から見れば、決して平面じゃない。 だから、製図担当者たちには明確な規則が必要になる。 担当区域が被っているところがあれば、それぞれが描いた地図での相対関係をルール化しなければならない。 そうして、一枚一枚の区域地図をそれぞれ紙に描くことで、最終的に一冊の地図になる。 ——さて、今我々がいる世界をそんな一冊の地図と想像してみましょう。 海上の巨大な波が紙の縁、君たちが利用した「高速海流」は紙の繊維。 もしくは、「ワーム」と言うべきかな。 「ワカートンネル」は、地心を通る「縫合線」、さしずめ本の背とのりの部分ね。 だから厳密には、「ワカートンネルが地球を貫通」しているのではなく、「元々地球とはワカートンネルで繋がっている」の。 ——それに、この本の背もページも、すべて誰かの意志によって作られた「人造のもの」。 ……質問があるなのです。 どうぞ。 量子の海の中でゼロから世界を作り出すには、天文学的な数字のエネルギーが必要になるはずなのです。 何らかの方法で「不要な区域」を「畳めた」としても、それが膨大なエネルギーに変わりないのです。 それほどの膨大なエネルギーを使い、この地球を作った人間の正体と目的は一体何なのです? 正直に言って、彼らの目的は推測の域でしかないわ。 けど、大図書館の資料から「容疑者」が誰かはわかる。 “asatela bahidalaki jhyurhi-kavina”—— ——この難解な言葉を知っているかしら、シュレーディンガー博士。 …… もしかして、「ⵀⵤⴺⵚⴽ ⴳⴶⴱⴹⴽⴸⴱ ⵥⵛⵌⴱ-ⴸⵖⴱⵎ」のことなのですか? ええ、よくご存知で。 ……まあ、色々とあって過去に学んだことがあるのです。 一体、何を話しているんですか?何かの暗号? ふふっ……あながち間違ってもいないなのです。 私たちの言語で最も近い単語は、とても詩的な名前なのです—— ——「ムーンライトスローン」。 ……! ……リタさんは、どうやら心当たりがあるみたいなのです。知っていることを話してくれますか? …… 私の知る限り、「ムーンライトスローン」は対崩壊特化型の大量破壊兵器です。そして、ネゲントロピーの巨大作戦兵器「アラハト」の主砲でもあります。 ……「アインシュタイン」と「テスラ」を名乗る二人の「執行者」が指揮を執る装置です。 ……なるほど、天命ではそう教わっているなのですね。 しかし、かっこいい名前を付けたものなのです。「ネゲントロピー」に「アラハト」ですか……ふふふふっ。 ……でも、「執行者」は平凡なのです。アインシュタインのアイディアでしょうか。いかにも、あの唐変木が付けそうな名前なのです。 ……? いえ、ちょっと昔のことを思い出していただけなのです。本題に戻るなのです。 厳密に言えば、「ムーンライトスローン」は兵器でないのです。あれはただのエネルギー転換装置。崩壊エネルギーをコントロール可能な普通のエネルギーに変換するものなのです。 人類は前文明末期にその技術を生み出しましたが、すでに手遅れだったのです。 あの時代、人類の持つ工業規模を十年間維持できていれば、量産された「ムーンライトスローン」が惑星規模の崩壊エネルギーを吸収しきることもできたはずなのです。 その「ⵀⵤⴺⵚⴽ ⴳⴶⴱⴹⴽⴸⴱ ⵥⵛⵌⴱ-ⴸⵖⴱⵎ」が、当時の——5万年前に作られたプロトタイプなのです。 それで、そこにいる「局長」兼「館長」さん——「ⵀⵤⴺⵚⴽ ⴳⴶⴱⴹⴽⴸⴱ ⵥⵛⵌⴱ-ⴸⵖⴱⵎ」と「ワカートンネル」には一体どんな関係があるというのです? 「ワカートンネル」は通り名よ。先ほどあなたが話したあの文明では、「ⵚⴺⵚⵇ ⵛⴺⵋⴱ」(etera jutashi)と呼ばれていたの。つまり、「エーテルアンカー」そのものね。 地心トンネルが……「エーテルアンカー」そのもの? そう。かの文明には「マイクロ宇宙」を構築する技術もあったようね—— 資料によれば、我々がいるこの世界全体は「エーテルアンカー」が人為的に拡張されたことでできたものなの。この世界が「世界の泡」の中で窮地に立たされている根本の原因でもあるわ。 その肝心のエネルギー源が——「ムーンライトスローン」と似たプロトタイプということなのです? 最初はそうだった。 「膜」は「エーテルアンカー」の周りで安定した「流れ」を形成した後、周囲の世界の泡から漏れ出た崩壊エネルギーを吸収して成長していった。 ピラミッドも、大陸の形も、星空も——そうやって「生まれた」ものなの。 待ってくださいなのです……つまり「小型の世界の泡」を作るのが目的ではなく、それらは崩壊エネルギーを変換するために用いられた手段なのですか? 「宇宙のゴミ処理場」のような世界の泡を作ろうとしたのが、当初の目的? 恐らくそう。 とはいえ——オリジナルの世界に比べたらここの体積は小さい。 こう言えばわかりやすいかしら。「エーテルアンカー」を起動し、「マイクロ宇宙」を作る際に消費される崩壊エネルギーをもうワンランク上げることができれば、文献の中に登場する「第一律者」や「第二律者」自身が持つエネルギーに相当するの。 後期の律者が操る崩壊エネルギー規模は、その遥か上…… そう。彼らからすれば、失敗した試みなのでしょう。 その試みが我々にこの奇妙な世界を与えた。結果、同時に大きな災いの種を蒔いてしまった。 伝説の中の「ナポレオン」が、恐らく災いを起こすきっかけとなった人物ね。 とはいえ……現実は伝説とかけ離れている。 ローランド、共和国の敵について説明してあげて。 共和国が設立されたその日から、終わりのない消耗戦が続いている。 我々には技術兵器と「星語者」がいるが、敵方には崩壊獣と精緻を極めた指揮がある。 崩壊獣で瞬時に百ないし千もの部隊を組み、攻撃目標をピンポイントで襲撃する。臨機応変で、互いに連携をとり、まるで誰かが空から指揮しているかのような存在。 我々が新兵器を実戦投入する度、敵は戦術的な優位で遅れを取り戻す。 それ以外の時間は、要塞を死守するしかすべがない—— 少なくとも「ワカートンネル」さえ落ちなければ、我々の背後にある国は安全だ。だが、要塞が陥落してしまえば、敵はトンネルを越えて世界中を侵略するだろう。 敵との交渉も視野に入れていたが、問題は—— ——敵国の名前も、指導者も分からない点だ。分かっているのは、崩壊獣を背後で「操る者」がいるということだけ。 「星語者」で結成された「使節探検隊」を出したこともあった。だが、敵地を数千リーグ進んでも、対話のできる相手は見つからなかった。 判明しているのは、敵の領土がエネルギーからできた高い壁の中にあるということ。そして、崩壊獣どもが壁の中から出てきて、我々の要塞へと攻め入ってくること。 そんな…… ……「ナポレオン」自身も怪物に変異しているとしたら、彼の周りで何が起きていてもおかしくないね。 それこそ、ヤツが狂ってしまっている可能性だってある。 …… ローランドさん、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか。 えっ?そこまで畏まらなくても大丈夫だ……それで何が聞きたい? 気にしないでください、リタは誰にでもこうなんです。 最初は気味が悪いかもしれませんが、悪気は決してありませんので。 それで何を聞こうとしたんですか、リタ? ある単語についてです。 ローランドさん、「星語者」とは一体何なのでしょうか? ……ん?知らないのか? えーと……簡単に言えば、私やあなた方と同じ、他の世界から来た者のことで、先天的に崩壊エネルギーに対抗できる者だ。 じゃあ、何でデュラはあなたを知っているのに、あなたは知らないんですか?おかしいじゃないですか? ……この世界に来る前の記憶がないからかもしれない。 でも、他の世界で何を経験していたとしても、今の私には関係がない、だろう? 人は過去を変えられないし、未来を先んじて経験することだってできない——誰もが「現在」を生きているのだから。 あっ……ちょっと真面目すぎたか? まあ、いつか退役した時には、あの「狂えるローランド」が過去に何をしたのか調べてみよう。 だが今は、共和国の軍人として「知らない」方が良いと思っている。 『時計じかけのオレンジ』みたいな話は、苦手なんだ。すまない。 少し気まずい雰囲気の中、外からの通信にノイズが入る。そして、ノイズは次第に強まり、ついには通信が切断されてしまった。 「カレドニア号」が電波の届かない深海に潜った証拠だ。 ローランドは潜水艦の機械を興味津々に眺め、リタの料理に舌鼓を打った。 そしてデュラに気を使ってか、共和国で流行っている冗談を披露した。 記憶喪失のことなど微塵も気に掛けている様子はなく、新たな世界で新しい人生を謳歌しているようだ。 ……それを、ビアンカは少し羨ましいと思った。 翌日—— うわぁ、ここ本当に南アメリカなんですか?アルプス山脈みたいです! 南緯47度だから、アルプス北のチューリッヒとほぼ同じ緯度だ。 はっ——はくしゅん! ……上着を持ってくればよかったな。寒い。 もう……情緒の欠片もない人ですね。 「ワカートンネル」の入り口は峡湾の向こうの谷にある、だが…… その前に、ここで少し時間を頂いてもいいだろうか。 ……? 厳かな雰囲気の石碑の前で、軍人は鎧を脱いだ。 初秋の野の花が、次第に彼女の手によって冠になっていく。 「私たちさすらいびとは、つねに、より孤独な道を探し、一日を終えたのと同じ所では新しい日を始めないのです。そして夕焼けが私たちを見たのと同じ所では、朝焼けが私たちを見ることがありません。」 「大地がまどろんでいるあいだにも、私たちは旅して行くのです。」 「私たちは不屈な植物の種。風に乗せられ散らされるのも、心の成熟と充満があってのこと。」

注釈:

レバノン出身の文豪・ジブラン(Gibran Kahlil Gibran)の『預言者』(The Prophet)より引用。